ハッピーメールで知り合った人妻と、十五年以上、メル友関係が続いている。
長いと言えば長いし、何も起きていないと言えば、確かに何も起きていない。
知り合ったのは、携帯電話がまだ折りたたみ式だった頃だ。
プロフィールには既婚と書かれていた。子どもがいることも明記されていた。
最初から線は引かれていたし、こちらもそれを越えるつもりはなかった。
やり取りは短文が中心だった。
挨拶、天気、仕事、日常の出来事。
感情を深掘りすることも、将来の話をすることもなかった。
一時期は毎週のようにやり取りしていたこともある。
逆に、半年、一年とまったく連絡が途切れた時期もある。
それでも、完全に終わったことは一度もなかった。
「久しぶり」
その一言で、また会話が再開する。
理由の説明はない。詮索もしない。
その距離感が、自然と出来上がっていた。
彼女は家庭の話を多くはしない。
不満や不安をぶつけることもほとんどない。
子どもの成長や、忙しさを淡々と伝えるだけだ。
こちらも、詳しい近況は話さない。
仕事がどうとか、生活がどう変わったとか、そういう話は避けてきた。
お互いに、相手の人生に踏み込まないことが前提になっている。
会おうという話が出たことは、一度もない。
写真の交換もない。
声を聞いたこともない。
それでも、関係は続いている。
この十五年の間に、環境は大きく変わった。
使っている端末も、アプリの仕様も、世の中の空気も変わった。
それでも、やり取りの内容だけは、ほとんど変わっていない。
この関係が何なのかを定義するのは難しい。
恋愛でもなく、友情とも違う。
秘密でもあり、日常の延長でもある。
ハッピーメールは出会いを目的とした場所だ。
だが、すべてのやり取りが「会う」ことをゴールにしているわけではない。
中には、言葉だけが行き来し、時間だけが積み重なっていく関係も存在する。
この関係が、これからどうなるのかは分からない。
ある日、返信が来なくなって、そのまま終わる可能性もある。
それを惜しいとも、怖いとも思っていない。
これは成功談でも失敗談でもない。
ただ、確かに存在していたやり取りの記録だ。
ハッピーメールという場所で、
十五年以上、何も壊さず、何も進めず、
それでも消えなかった関係があったという事実だけが、ここに残る。


コメント